TECH NOW

システム開発

2024.11.13

AIの進化は生物の進化に似ている?単細胞から多細胞への進化との対比でみるAIの進化論

近年、自然言語処理の分野では大規模言語モデル(LLM)の開発競争が活発化し、モデルの大規模化によって飛躍的な性能向上を遂げてきました。しかし、LLMの限界も見え始める中、複数のAIを連携させることで高度な知能を実現しようとする新たなアプローチが注目を集めています。

「生物の進化」と「AIの進化」の類似性

この複数AIの連携による知能の進化は、まるで生物の進化の過程を彷彿とさせます。生物は、もともとは単細胞生物から始まりました。やがて、複数の細胞が集まり、役割を分担することで多細胞生物へと進化を遂げたのです。

すこし詳しく見ていきましょう。

単細胞生物から多細胞生物への進化は、生物の進化における重要なステップでした。以下に、多細胞生物への進化のメリットと、生殖細胞を機能的に分離することの意義について簡単に説明します。

出典:JT生命誌研究所 季刊「生命誌92号」より野崎久義「ボルボックスの仲間から多細胞化を探る」図1群体性ボルボックス目の仲間

複雑な構造と機能の獲得

  • 多細胞化により、単細胞では限界のあった複雑な構造と機能を持てるようになりました。
  • 脳や心臓など、特定の機能を持つ器官の形成が可能になりました。

生存競争に有利

  • 単細胞生物に比べ、多細胞生物は捕食者から身を守りやすくなりました。
  • 細胞が集団を形成することで、単独の細胞よりも生存率が上がりました。

多様性の獲得

  • 多細胞化により、生物はより多様な環境に適応できるようになりました。
  • 陸上への進出など、新たな生息地の獲得が可能になりました。

ようは、単細胞生物から多細胞生物への進化で、生物が複雑な構造を持ち、より多様な環境に適応しやすくなることで、生存競争に有利になりました。良いこと尽くめでかつ飛躍的な躍進につながったっということです。

さらに、多細胞生物へ進化したことで、生殖細胞を分離することができました。

生殖細胞(精子や卵子)と体細胞(身体を構成する細胞)が機能的に分離することで、生殖細胞は減数分裂を経て遺伝情報を安定的に継承し、体細胞の変異が次世代に直接引き継がれるのを防ぎます。また、減数分裂と受精によって多様な遺伝的組み合わせが生まれ、集団内の多様性が促進されました。

このように、多細胞生物への進化と生殖細胞の分離は、生物がより複雑で多様な姿へと進化していく上で、重要な意味を持っていたと言えます。

AIの進化の系統

AIの世界でも、今は単一の大規模モデルの開発が主流です。しかし、複数の小規模なAIを連携させ、AIの集合体として機能させる「AIコンステレーション」とも呼ばれる新たなアーキテクチャが提唱されるようになりました。これは、まさに単細胞から多細胞への進化に類似しています。

小規模AIの連携による利点

NTTとSakana AIが進める複数AIの連携アプローチには、いくつかの利点があります。まず、小規模なAIを分散的に配置することで、単一のAIモデルの省電力化が可能になります。LLM開発には膨大な計算リソースが必要とされますが、小規模AIの連携ならば環境負荷を抑えられるのです。

また、AI同士が自律的に協調することで、個々のAIでは生み出せないような「新たな集合知の創出」も期待できます。これにより、より複雑な社会課題の解決につながる可能性があります。

出典:日経XTECH「45億円を調達したsakana AI、NTTと狙う『AIコンステレーション』」より

LLMの限界とSLMへの期待

LLMは飛躍的な進歩を遂げてきましたが、最近ではその性能向上に頭打ちの兆しが見られます。上位モデル間の性能差は縮小傾向にあり、新たなブレークスルーが求められています。

そんな中、小規模言語モデル(SLM)への注目が高まっています。SLMは、特別なハードウェアを必要とせず、スマートフォンなどの身近なデバイスでも動作可能です。LLMでは実現が難しかった、エッジコンピューティングでの活用にも道が開けそうです。

AIコンステレーションによる「新たな集合知の創出」の可能性

AIコンステレーションは、複数のAIを自律的に連携させることで、生物の多細胞化のようにAI全体としての高度な知能を実現しようとするものです。それぞれの小規模AIが得意分野を持ち、AIエージェントとして協調することで、より柔軟で適応力の高いAIシステムを構築できます。この連携により、個々のAIでは生み出せない新たな集合知を創出し、今までにない知識や価値を生み出すことで、複雑な社会課題の解決につなげることを目指しています。

言語モデル間の議論による推論力・事実性の向上

MITの研究チームは、複数の言語モデルを議論させることで、推論力や事実性を高める手法を開発しました。お互いの回答を批評し合うことで、言語モデルは自身の回答を洗練させ、問題解決能力を高めていくそうです。

人間とAIのコラボレーションによる相乗効果

また、人間とAIがコラボレーションすることで、お互いの長所を補完し合い、大きな相乗効果が生まれることも分かってきました。Accentureの調査によると、AIを人間の代替としてではなく、協調的なインテリジェンスとして活用した企業ほど、パフォーマンスが大きく向上したそうです。

AIの倫理的な発展の重要性

一方で、AIの進化を人間がコントロールしていく倫理的な責任も忘れてはいけません。AIは人間社会に大きな影響を与える存在になりつつあります。AIを人間の尊厳を脅かすものではなく、人間社会の持続的な発展に寄与するものとして育てていくことが肝要です。

まとめ

生物の進化の過程をヒントに、AIの新たな進化の形を模索する。AIコンステレーションは、まさにそんな試みだと言えます。単に規模を追求するだけでない、AIの新たな可能性を感じずにはいられません。

AIが連携することで生まれる知能の向上は、生物の単細胞から多細胞への進化のように、大きな可能性を秘めていると言えるでしょう。

生物が多細胞生物へ進化した後に、カンブリア大爆発(約5億4000万年前にカンブリア紀で起きた現象)で、多様な動物が短期間で一斉に出現したように、AIも多様な知性が一斉に出現するのかもしれませんね!